人は死んだらどこに行く? 「他界」は山にあるという考え方は「自然葬」のルーツかも

終活・セカンドライフ

2023年10月から、「終活」に関する学びの一環として「memento mori-死を想え-」というオンライン講義を受けています。宗教学者で東北大学名誉教授の鈴木岩弓(いわゆみ)先生が講師を務めるこの人気講座は、なんと無料! テンポの良い語り口と豊富で貴重な資料に、つい引き込まれて見入ってしまっています。

講座では、宗教や神話、習俗など様々な切り口から、日本人にとって「死」とは何であるかを解き明かしていきます。その中で紹介されていた、「死後の人の行方」を万葉集から読み解いた調査研究が、めっちゃ面白かったのでシェアします!

万葉集に詠まれた死者の行方で最も多かったのが「山」

この研究を行ったのは、宗教学者の堀一郎氏(1910~1974)。「万葉集にあらはれた葬制と他界観、霊魂観について」という論文で、1953年に発表されています。今から70年前ですね。ちなみに、万葉集が編まれたのは奈良時代の終わりで、およそ130年間(630年ごろから760年ごろ)に読まれた和歌が収載されているそうです。ざっくり1300~1400年前ですね!

堀氏は、万葉集に収載された和歌4516首のうち、人の死を悼んで詠まれた「挽歌(ばんか)」がどれくらい含まれているか、そして、挽歌の中で死者がどこに行ったと捉えられているかを調べました。

まずは挽歌の割合です。万葉集には、挽歌が263首(5.82%)含まれていました。このうち、一般的な死についてではなく、歌を詠んだ人にとって大切な人の死を扱った212首について、堀氏は死者がどこに行ったと捉えているかを分析しました。

すると、死者の行方として最も多かったのは「山」。38.52%が、亡くなった人が山丘に隠れている、とみなしていたそうです。この考え方を「山中他界観」と呼ぶそうです。

私は、亡くなった人(の魂)は高いところに上る、空に行く……と、ばくぜんと思っていました。亡くなった人が行く世界、つまり「他界」は空にあると。おそらく現代の日本人の多くは、私と同じように、他界は空にある、天にある、と考えているんじゃないかと思います。

…あとは…地の底とか。地獄ですね💦

でも、1400年前の古代の日本人にとっては、人は死んだら山に隠れる、と考えるのが主流だったんですね。山中他界観、新鮮だなあ!

大ブームの「自然葬」につながる古代の他界観

ちなみに、「天に上る」という捉え方は第2位で、18.85%の挽歌に詠まれていたそうです。

そして、同率2位の他界の場所は「海」(18.85%)。以下、樹木(10.65%)、黄泉・地下(5.73%)、(4.09%)、(3.27%)と続きます。

古代では、死んだ人(の魂)が山に隠れたり、海辺に鎮まったり、樹木に宿ったりするという考え方は広く受け入れられていたようですね。

最近は自然葬といって、遺骨をお墓ではなく自然に還す葬送形式が増えてきているそうです。自然葬には、海や山に散骨するものや、墓石ではなく樹木や草花を墓標として埋葬するもの(樹木葬)があります。

なかでも樹木葬は、2023年の調査で「購入したお墓」の過半数(51.8%)を超えています(鎌倉新書「第14回 お墓の消費者全国実態調査」)。もはや「日本人のお墓と言えば、墓石ではなく樹木」という時代なのですね。

個別の墓石を置かず樹木や草花を墓標とする樹木葬には、正直言って、当初は違和感を覚えました。なんだか頼りないなあ、みたいな。でも、古代の日本人から見たら、死んだ人が海や山に還る、樹木に宿るのは自然な捉え方。そこに思い至れば、昨今の自然葬ブームにも納得です。

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